【 ととのえ飲食コラム 】

今回は、退職時の有給買取と引き継ぎを両立させる、インセンティブを軸にした社内制度の考え方についてまとめました。

「買い取るから出勤して」とは言えない ― 引き継ぎと有給消化を両立させる制度設計

前回、本来有給休暇は休んで消化すべきものであるため、有給の買取は原則として認められておらず、休む余地があるのに「買い取るから出勤してほしい」とは言えないことをお話ししました。今回は、この制約を踏まえたうえで、退職時の有給買取をどう制度として設計するかを考えていきます。

有給の買取、例外的に認められるケース

原則不可とはいえ、有給の買取がすべて違法というわけではありません。たとえば、時効(2年)で消滅してしまう分をあえて買い取ること自体は、違法ではありません。ただし、有給休暇の趣旨はあくまで従業員に休んでもらいリフレッシュしてもらうことにあります。消滅分の買取をあえて制度化してしまうと、消化への意欲を削いでしまいかねず、積極的に設ける必要性は薄いといえます。

一方で、時効消滅分を切り捨てず、病気の際などに限定して使える「積立有給」としてストックしておく制度を設けている会社もあります。使い残した有給がまた生きてくる可能性があり、福利厚生としては良い工夫といえるでしょう。

そしてもう一つ、退職時に残った有給に限り、会社が制度を設けたうえで買い取ることも、違法ではありません。今回はこのケースを軸に考えます。

会社は引き継ぎがほしい、本人は有給を使い切りたい

退職が決まったとき、会社としては引き継ぎをしっかり行ってほしい。一方、本人としては残った有給を使い切りたい。この二つは、ともすれば対立してしまいます。1ヶ月前に退職を申し出て、同時に有給消化に入ってしまうと、事実上、引き継ぎの時間が確保できないまま退社を迎えることになりかねません。

「2ヶ月前申告+引き継ぎ完遂」を条件にする

そこで一つの案として、2ヶ月前までに退職を申し出ること、そして同時に、消化しきれない残有給の買取を申し出ることを条件とし、そのうえで会社が定めた引き継ぎを完遂したと会社が認めた場合に限り、買取を行う、という制度設計が考えられます。

ここで大切なのは、「買い取るから出勤してほしい」という話ではない、ということです。会社としてはできるだけ消化してもらう方向で調整しますが、引き継ぎのために出勤が必要な日もあるため、結果的にすべて消化しきれなかった、というケースも出てくるでしょう。そのとき残りの数日は、「引き継ぎをしてくれてありがとう」という形で買い取る。あくまで消化が主、買取は消化しきれなかった差分を埋めるもの、という順序です。

2ヶ月という猶予があれば、こうした調整の余地が生まれます。会社にとっては引き継ぎが確保できる安心感が、本人にとっては有給を無駄にせず退職を迎えられる(買取という形で)メリットが、それぞれのインセンティブとして働きます。

運用のポイントは二つ

一つは、この制度があること自体を、日頃からしっかり周知しておくことです。「1ヶ月前に申し出たので買い取ってほしい」と言われてから「うちは2ヶ月前ルールです」と後出しで伝えると、話がこじれてしまいます。

もう一つは、「引き継ぎの完遂」とは何かを明確にし、本人と会社の間で認識をすり合わせておくことです。本人は完遂したつもりでも会社がそう見なさなかったり、到底達成できないラインを引かれて買取を拒否されたりすると、せっかくの制度が裏目に出てしまいます。有給消化と引き継ぎのスケジュールを、退職申し出の段階ですり合わせておく必要があります。

まとめ

そもそもの土台として、日頃から有給を計画的に消化し、手持ちの日数をある程度減らしておくことが前提にあります。そのうえで2ヶ月前申告の仕組みを設ければ、消化を尽くしたうえでなお残った分だけを買い取る、という無理のない形に落とし込めます。

ただし、この制度によって「1ヶ月前に申し出て一気に消化する」というケースをすべて防げるわけではありません。目指しているのは抜け道を塞ぐことではなく、有給消化を第一に考えたうえで引き継ぎに協力してもらえた分には会社としても責任を持って報いる、という労使間の協調を促す仕組みです。これが唯一の正解というわけではありませんが、一つの案として提案します。